銀化に所属するみなさんの句集や著作物をご紹介します。
ひかり秘めたる
川原真理子
2023年10月
194ページ
2500円(税別)
【中原道夫選10句】
惜しむべし春とをとこの愚かさを
くれなゐをはつかに抱けり蒸鰈
中身より見かけ大切蟇
蛤の鍋にかそけきかひやぐら
牡丹雪無為な言葉のやうに降る
水温む死者は洗濯物出さず
花冷えの中有の傷のごとき月
撃てるかと鹿に問はれてをりにけり
今朝の冬手強くなりしバタナイフ
枯蔓を引けば崩るる大伽藍
河内文雄
2023年6月
226ページ
3000円(税別)
【自薦15句】
開き又閉づる日記を始めけり
餞は春の立つ日のそのやうに
春や風のほとりに青銅の騾馬
正門を真つ直ぐ出でて卒業す
春宵のまだやはらかき嘘の芯
空蝉や命にのこり香のあらば
之繞のはらひ長しや迎へ梅雨
心映え美しや芭蕉布着熟して
噴水に下手な気骨の無き強み
海の日は来る海の無き県にも
命あるものに緩急やぶ枯らし
濃く淡く霧は佳境を描き分け
神の愚痴神が聴きをり神無月
蓮根の穴に秩序のあるカオス
敗れざる者らのこころ埋火は
イニシャル
柴田奈美
本阿弥書店2020年8月
152ページ
2600円(税別)
【自薦12句】
竹百竿春の夕日を沈めたり
先頭を駆ける黒帯春の浜
玉葱を呪詛のごとくに刻みけり
苺の香させつつ小さき嘘つきぬ
男傘借りて帰りぬ桜桃忌
真黒な蝶次々と草いきれ
縁先に羽ばたいてゐる夜の秋
人形を背負ふままごと鳳仙花
どんぐりの降る降る鬼は十数ふ
白菜を割つて仕掛けの何もなし
白鳥の首は哲学的に垂れ
握り拳作り手套をなじませる
關考一
ふらんす堂
2021年6月
230ページ
3000円(税別)
【自薦12句】
ずぶ濡れのワイシャツ脱がむ夕の虹
ゴーグルに当たるものあり冬銀河
唇を噛めば春星うるみがち
カモナマイハウス狭き穴なり望潮
春愁に掛け回す蜜黒か白か
鰥にも荒地野菊の道はある
目玉さへ点眼薬の涼を欲る
空少し広うなりたる盆の明
盆明けや異界の如き会社へと
神の留守穴(とぼそ)・突起(とまら)にあそびかな
ダイキリのよく出る晩の守宮かな
◆装釘についてのふらんす堂の記事はこちら
小池康生
飯塚書店
2020年10月
160ページ
2000円(税別)
【自薦10句】
ななふしのやうにどこかにゐてくれる
邦題がとつてもいいの日脚伸ぶ
裸木のときが全き完成形
巣箱掛け最初の雨が降つてをり
蝶来る棺の窓を開けたれば
鹿の子の咥へてすぐに後じさり
画家の眼を通したやうな裸かな
唐辛子売るや辛さを詫びながら
魞挿すに名山ふたつ目で結ぶ
風一重二重三重八重芒原
峯尾 文世
ふらんす堂
2012年9月
190ページ
2476円 (税別)
【自選10句】
打つよりも引く波音のはつむかし
折鶴のふつくらと松過ぎにけり
先客の靴の濡れある猫の恋
空襲のこと達筆に春の雪
鏡台は正座の高さ祭笛
ゼリー揺れ自分を許さうかと思ふ
鬼灯市夕べを長く使ひけり
売れ残る西瓜に瓜のかほ出でて
沸点はいつときにして敗戦忌
秋晴れが鏡のなかにしか見えぬ
可惜夜(あたらよ)
下村 志津子
角川書店
2010年8月
217ページ
2800円(税別)
【自選10句】
可惜夜の鳴らして解く花衣
嫩草やひかりの幅が川の幅
匠には非売のこけし栃の花
田水沸く死者も生者も化粧して
八ツ橋に釘の浮きたつ炎暑かな
稽へてをれば匂ひをくれし桃
山荘や冬を妊る雨の音
夢寐にまで入りたがるよ雪明り
短日や火の色孕むかもめの眼
メトロにも青空の駅つばくらめ