「銀化」とは紀元一、二世紀のローマングラス、はたまた中國漢代の綠釉壺などに見られる化學變化のことで、永年土中に埋もれてゐると、雨水や土中成分などと反應し、ガラスの表面若しくは釉面が銀彩色に變化、輝くことを謂ふ。詩人宗左近曰く「最低六百年は土中にあらねば、その變化は生じない……」と。その銀化に倣ひ六百年後の自分の句などのことを考へてみても詮なきことであるが、俳句といふ小器が妖しく銀化しないとも限らない。こんな豪宕なる夢もまた明日への活力にならう。
(中原道夫句集『銀化』あとがきより)
初夢のいくらか銀化してをりぬ
中原道夫 句集『蕩児』所収